news246

いろんな企画系の仕事をしている30歳の男(ニーヨンロク)が、買ってよかったものとかうにゃうにゃ書きます

みんな妖怪だよ!〜通勤電車篇〜

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 通勤時間の電車には物怪(もののけ)が潜んでいる。「妖怪ドアの横取り」や「妖怪背中熱い」などはみなさんも見たこと体感したことがあるかもしれない。ドアの横取りはなにがあってもその場を離れない、恐らく地球が滅亡する日になってもまだ、山手線や中央線のドア横を守っているのだろう。もうひとりの背中熱いは少々厄介だ。というのも彼らは外見はさながら人間とそっくりで、外からでは区別が全くつかない。すし詰めになったあとようやく気付けるのだ、「こいつ背中熱いな」と。前者は多少問題があるかもしれないが、どちらも悪意があるわけではないので、なんとか共存は図れそうだ。

 だがたったひとりだけ、野放しにするのは危険な妖怪がいる。それが「妖怪身体ゆらす」である。この妖怪は中年の外見を真似ていることが多い。だからそのような姿の生物が自分の隣に座ってきたら用心が必要となる。

 

 昨夜、会社からの帰宅の電車で、僕は運よく席に座れていた。大した時間ではないのだが満員で立ちっぱなしよりはよほど楽に過ごせる。電車が停まり大勢の人が降り、半分ほどの人が乗ってきた。隣の人たちもそこで降りたので、空席ができたのだがその十秒後、いかついおじさん二人が座ったのである。嫌な予感がした、直感というやつだ。そしてその予感は現実のものとなる。電車が走り始めるまでのほんの十秒、二十秒足らずの間に揺れだしたのだ。他の乗客に聞かせたいのか声も随分大きいようだな。まぁ音はよい、僕はイヤフォンをしているからそこまで苦痛ではない。問題はこの揺れだ、腕組みをしたおじさんの肘が僕の二の腕にぐっぐっと食い込んでくる。餅つきのように延々やってくるので、距離を取ろうと身体を縮こめてみる。電車通勤上級者のみなさんならその先がわかるだろう。そう、おじさんは空いたスペースに飛び込む往年のロナウドのように、ぐっと詰めてきたのだ。

 自分勝手なやつだ、僕は心のなかで毒づく。自分では普通と思っていることが、相手には迷惑な場合だってある、それをおじさんは理解しない。こういう妖怪にだけはなるまい、そう僕は心に決めてそれから十数分の間、狭小住宅のまま、バッグに入れてひしゃげてしまったサンドイッチのままの状態をキープした。涙がでる思いだ。

 

やっとこ最寄りの駅について、命からがら電車を飛び降りた。そして数分歩いて家についた。帰ったらなによりも先に僕は、スウェットに着替える。履いていた靴下を洗濯機に放り込み、洗面台で手を洗い、自分の机にいってカバンの中身をだし、それからようやく台所の冷蔵庫を開けて麦茶を飲んで一息つく。麦茶を飲みながらちらりと横をみると妻の姿。こいつも物怪かと思っていたら、「スリッパ履いて。いつも言ってるでしょ」とお叱りを受けた。うるさいなぁいちいち細かいよ、と口に出すすんでのところではっとした。僕も「妖怪ぺたぺた歩き」になっているではないか。